学会発表
このページでは、膝の痛みと歩行障害に関する治療についてご紹介します。Patellofemoral Pain Syndrome(膝蓋大腿疼痛症候群、PFPS)は、膝の前部や膝蓋骨周辺に痛みを感じる病気です。この症状は、特に女性や若い成人によく見られます。治療法としては、ボトックス注射が有効であることが分かってきました。このページでは、ボトックス注射による治療の効果や方法について、説明しています。
(第38回日本ニューロモデュレーション学会) :発表日時: 2024年5月18日(土) 13:10〜14:05 セッションタイトル: 一般演題2 「DBS, FUS, TMS, BTX
(大腿四頭筋の外側広筋の緊張が、下肢の軸が股関節から外転位をとり起立、歩行障害の原因になることを報告した。この異常な外転偏移を、ボトックスが即効的に改善するのに有効で、直後から歩行が改善することを報告した。 その後、ISPRMの共同演者の Simon Tang が、膝蓋骨の内側前方偏位(ヘルニア)が、下肢軸の外転位を促進、外側広筋の膝蓋骨外側かた脛骨上端前面に停止する、外側広筋の筋緊張増加をボトックスで弛緩させると、上記の膝蓋骨ヘルニアが改善することを報告している。Fig1)
概要
外側広筋ボトックス注射が起立・歩行の改善に著効した脳脊椎疾患後 Patellofemoral Pain Syndrome 8例の検討
Botox injection of vastus lateralis ameliorated gait disturbance in 8 cases of patellofemoral syndrome after supine and brain disease
西野 克寛1, 平山 晃康2, 今村 一之3
1森山記念病院脳神経外科, 2日本大学 松戸歯学部附属病院 痛み医科, 3前橋工科大学
筆頭演者は、日本脳神経外科学会に2024年分のCOI登録は完了しており、またこの発表に関しては開示すべきCOIはありません。
はじめに
背景:Patellofemoral Pain Syndrome(膝蓋大腿疼痛症候群, PFPS)は膝の前部、膝蓋骨後方または周辺に痛みを生じる病態で,大腿四頭筋の外側広筋と内側広筋の相対的不均衡によると報告されている。膝の主訴で最も多い疾患で、女性が男性の2倍と多く、10代から若年成人で、関節炎では高齢に多発します。
その原因は内側広筋の筋機能障害、膝蓋骨の位置・トラッキング異常,股関節筋力の低下などが多々あり、治療介入の効果についての報告は少ない。 治療は、変形性膝関節症へ移行する可能性も報告され、保存療法の選択が多い。
最近の6年間で、私達は脳卒中や脊椎疾患の既往があり、膝痛に加えて、痙縮由来の下肢痛で歩行障害をきたすPFPS 8例を経験した。起立時に増悪する外側広筋等の痙縮を確認、ボトックスを大腿四頭筋等に投与し、起立、歩行などADLが改善したので報告する。
対象
平均年齢 | 75.87 ± 7.38 (歳)(mean ± SEM) |
---|---|
男/女 | 1/7 (例) |
発症後期間 | 8.25 ±7.36 (年) |
症状 | 下肢の運動麻痺:1例、両側性の大腿外側広筋の痛みと痙縮:6例、大腿二頭筋の痛み:1例、運動時膝痛:7例 |
背景疾患(例数) | 脳出血(1)、NPH (1)、胸腰椎圧迫骨折(2)、変形性膝関節症PFPS (3)、関節リウマチ(1)、下肢閉塞動脈硬化症(1)、脊椎管狭窄症(2) |
方法
- トリガーポイントを施行(外側広筋)→ 有効、1−2週後
- Botox注射 :用量:100〜200単位(生食2−4ml)両側外側広筋(4−6箇所)に投与
- 効果判定:直前および1ヶ月後, mRS, VASを判定
評価方法
mRS | 評価 |
---|---|
0 | normal |
< 3 | gait without assist |
4 | gait with assist |
5 | bedridden |
結果
- 直後、8例中7例で、イスからの起立動作や、歩行が改善した。
- 1ヶ月後mRS、投与前:4.14±0.69、1ヶ月後:1.87±0.64(t-test, P<0.001) と有意に改善。運動時の膝痛も、改善した。
- 合併疾患に対する治療:胸腰移行部脊髄刺激電極埋込:4 例、ITB(intrathecal baclofen pump) implant:1例、LP shunt:1例、下肢動脈ステント留置 :1例
考察
BotoxがPFNSの痛みの管理に有効。Y Kesary et al: botulinum toxin injections as salvage therapy is beneficial for management of patellofemoral pain syndrome. Knee Surgery & Related Research volume 33, Article number: 39 (2021)
BotoxがPFNSの痛み・歩行に有効:拮抗筋に対する相反抑制を証明。Alice Chu Wen Tang, Chih-Kuang Chen, Szu Yuan Wu and Simon F. T. Tang :Improvement of Pain and Function by Using Botulinum Toxin Type A Injection in Patients with an Osteoarthritic Knee with Patellar Malalignment: An Electromyographic Study, Life 2023, 13(1), 95; https://doi.org/10.3390/life13010095
Mechanism of pain and ADL modulation: 1) Botox is effective for reduction in pain management in FFPS - less pain improved gait disturbance & adjustment of alignment between lower limb and hip joint (2021,Yuval Kesary et al) 2) reciprocal inhibition (2023, Alice Chu Wen Tang & Simon Tang) may modulate CPG 3) Spinal Motor Centers, "nuclei" Internuncial Interneuron System 'PROCESSOR'
結論
- 脳・脊椎疾患後に合併した、大腿外側広筋の痙縮および運動時下肢痛がみられるPFPS類似の病態で、ボトックスの両側外側広筋へ投与により、直後から起立が可能となり、歩行を持続的に改善させた。
- 痙縮部位の磁気刺激、トリガーポイントはボトックスの効果予見に有用と思われた。
- BotoxがPFPSの痛みの管理や膝関節の運動改善に、有効と報告されているが、今回、中枢神経損傷、脊椎損傷例で、痛みと歩行障害の改善を経験し、若干の考察を加えて、報告した。